暦の上ではもう春ですが、東京ではまだ寒い日が続いています。何日も続けば、こちらも予防手段はあるのですが、平均気温が25度という日が何日か連続し、暖かいが暑いになり、ストーブは仕舞いこむ、冬用の衣類は戸棚の奥、という事態を迎えてから、急に冷え込んだので困ります。私は太りすぎの脂肪が守ってくれましたが、55キロ以下の友人たちは次々に風邪で倒れ、電話での会話は全て咳付のバリトンでした。
それでも春は来ます。
重さはどのくらいか知りませんが、地球という名の星が一回転すると闇は春の前に退けられ、太陽の周りを巡る間に季節が交替する。これは、かなり凄いことではないでしょうか。太陽からの距離があと少し遠くても近すぎても、地球上に人類は存在しなかったでしょう。まあ、これは物理的な現象ですが、人間の精神にとって、何より重大なことを可能にしてくれました。明けない夜はなく、凍てついた冬は、やがて春の温みの前に去っていきます。これこそが、人間が欲望の淵に立ちながら、なお、生き抜いていこうと思う、大いなる源泉ではないでしょうか。宇宙を創造した何かを“神”と呼ぶならば、“神”は人間をおろかにこしらえてしまった代償に、“希望”を与えたのではないか。暗黒が青みを帯びていく暁や、冬のさなかにふと吹き付けてくる春風を感じたとき、特にそう思います。